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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)2号 判決

愛知県名古屋市南区三吉町四丁目七三番地

原告

日本施設保全株式会社

右代表者代表取締役

伊藤晏弘

右訴訟代理人弁理士

伊藤研一

東京都千代田区神田駿河台四丁目二番地八

被告

高砂熱学工業株式会社

右代表者代表取締役

石井勝

東京都中央区日本橋小網町一九番五号

被告

丸紅建設機械販売株式会社

右代表者代表取締役

尾地和男

東京都千代田区大手町一丁目七番二号

被告

株式会社東京ライニング

右代表者代表取締役

金井邦助

神奈川県横浜市中区山下町七三

山下ボートハイツ九〇四号

被告

破産者東洋ライニング株式会社破産管財人

田子璋

被告

同破産者松田信一破産管財人

田子璋

被告ら訴訟代理人護士

石川幸吉

同弁理士

秋元輝雄

同訴訟復代理人弁護士

成瀬眞康

主文

特許庁が昭和六一年審判第四三〇四号事件について平成二年九月二七日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨の判決

二  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告らは、発明の名称を「パイプのそ生方法」とする特許第一二七六六七六号(昭和五四年一月一〇日出願、昭和五七年一一月二九日出願公告(昭和五七年特許出願公告第五六三九一号公報)、昭和六〇年八月一六日設定登録、以下この特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者であるが、原告は、昭和六一年三月七日、被告らを被請求人として右特許の無効審判を請求し、昭和六一年審判第四三〇四号事件として審理された結果、平成二年九月二七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年一二月一〇日、原告に送達された。

二  本件発明の特許請求の範囲

設置されている老朽化したパイプを取りはずすことなくしてそ生するパイプのそ生方法であつて、旋回運動をしながら送出されかつ砂を含む圧縮気体をパイプの一端に供給してパイプ内を通過させ掃除する段階と、旋回運動をしながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端へ供給して通過させパイプの内面に塗膜する段階とを包含し、前記エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになつていることを特徴とするパイプのそ生方法(別紙図面一参照)

三  審決の理由の要点(取消事由に関する部分のみ摘示)

1  本件発明の要旨は、前項記載のとおりである。

2  請求人(原告)は、本件特許を無効とする理由として、

(1) 本件発明は、本件出願前に頒布されている甲第二号証(日刊工業新聞 昭和五二年一〇月二四日版)、甲第三号証(昭和五三年特許出願公開第八九二七〇号公報)、甲第六号証の一ないし一二(「SDCコート#402TF JWWA K 115 説明書」大日本塗料株式会社技術第一部発行)及び甲第一三号証(THE OIL AND GAS JOURNAL-一九七七年一一月二一日発行)の各刊行物の記載内容からみて、その出願後に出願公開された甲第一号証(昭和五四年特許出願公開第一二七九四一号公報)の願書に最初に添付した明細書又は図面(別紙図面二参照)に記載された発明と同一であり、その発明者及び出願人と同一であるとも認められないので、本件特許は、特許法二九条の二の規定に該当する。

(2) 本件発明は、甲第九号証(ユニオン・カーバイド・ジヤパン株式会社作成の一九七六年一二月二八日付注文請書)、甲第一〇号証(ユニオン・カーバイド・ジヤパン株式会社作成の一九七七年八月二三日付受領書)、甲第一二号証(「SANDJET 1000 CLEANING UNIT IN JECTION HEAD」INTERNATIONL ENGINEERING CO.LTD発行)、甲第一九号証(平野繁造の供述書)及び平野繁造及び佐藤久に対する証拠調(本訴においてその結果をそれぞれ甲第二五号証及び甲第二六号証として提出)からみて、本件出願前に公然実施されていたものであるから、特許法二九条一項二号の規定に該当する。

として、本件特許は特許法一二三条一項一号の規定により無効とされるべきであると主張した。

3  (1)について

甲第一号証には、管の内面を塗装する方法であつて、管の内面にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する管の内面塗装方法が記載され、この方法は、従来技術では困難又は不可能とされていた管の内面塗装、特に水道管や各種パイプラインのように固定された管の内面塗装を可能とするものであること、及び、近時、水道管、パイプライン等の内部を研掃するのに、窒素ガスで付勢された研磨剤によつて管内を掃除する工法が開発されたが、この工法で内部を研掃された管の内面に塗装を施すのであれば、窒素ガス源(液体窒素)が既に用意されているので、この方法をきわめて容易に、しかも好結果の得られる状態で実施できることが記載されている。

しかし、甲第一号証には、塗料が、主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになつていることについては何も記載されていない。

そして、甲第二号証には、「インジエクターで窒素の力で押し出された研摩剤と混合、流動性の物体となつて洗浄するパイプに送り込む。パイプ内ではウズ巻き状の乱流になつて高速で送り込まれるため、低い入射角で鋭角的にあたるので均一に研摩(除去)できる」こと、甲第三号証には、「浄化されるべきパイプラインの入口部における浄化作用を改善するようにパイプライン内に研磨材担持ガスを導入する為の注入ヘツドであつて、入口端と出口端とを具備しそして出口端において浄化されるべきパイプラインの入口端に止着されうるようになつているチユープ状ヘツド部材と、ガスに渦巻き作用を賦与するようにガスをヘツド内に半径方向に導入する為前記ヘツド部材の外壁に設けられるガス導入口と、前記ヘツド部材の入口端における迅速連結式閉成部材と、前記ヘツド部材の内径と実質上同じ直径を有しそして該ヘツド部材中へのガスの導入点の下流で該ヘツド部材内に位置づけられる円形の邪魔板であつて、中央穴とそれを取巻く複数の羽根とが形成され、該羽根を通り抜けるガスをヘツド部材壁に対してらせん状に差向けるようになしそしてガス導入口の流れ面積と等しい流れ面積を持つ邪魔板と、前記閉成部材及び邪魔板における中央穴を装通される単一の研磨材注入管であつて、研磨材が邪魔板の下流でヘツド部材内に導入されるように邪魔板を越えて突出しそして注入管及び邪魔板が閉成部材とユニツトとして取外されうるよう邪魔板及び閉成部材に固着される研磨材注入管とを包含するヘツド」が、甲第六号証の一ないし一二には、水道管の内面塗装にタールエポキシ樹脂塗料を使用すること及びこの塗科が本件出願前の昭和五〇年八月一二日、同年六月四日に公知であつたこと、そして、甲第一三号証には「供給された窒素ガスをインジエクシヨンヘツドにより旋回させた後、旋回する窒素ガスに研磨材を供給して旋回させる。そして旋回する研磨材を、クリーニングしようとするパイプラインに供給してカーボン等を除去する工法」がそれぞれ記載されているが、これらの記載から、直ちに、甲第一号証において、塗料が主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹脂塗科は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送り出されるようになつていることが当業者に自明であるものとは認めることができない。

一方、本件発明は、前記の構成により、明細書に記載されたとおりの優れた効果を得ることができたものと認められるので、本件発明が甲第一号証の発明と同一であるとは認められない。

4  (2)について

甲第一九号証には、パイプをインジエクシヨンヘツドにより高圧窒素ガスで掃除し、主剤と硬化剤とからなる二液性のエポキシ樹脂塗料により塗膜することを本件出願前の昭和五三年五月一三日に公然実施したことが、甲第九号証には、ジヤパンジエツトクリーン工業株式会社がユニオン・カーバイド・ジヤパン株式会社にインジエクシヨンヘツド等を発注して受け付けられたことが、甲第一二号証には、ジヤパンジエツトクリーン工業株式会社がユニオン・カーバイド・ジヤパン株式会社から購入したインジエクシヨンヘツドの製作図面がそれぞれ記載され、証人平野繁造に対する証拠調べにより、パイプをインジエクシヨンヘツドにより高圧窒素ガスで掃除し、主剤と硬化剤とを混合した二液性のエポキシ樹脂塗料により塗膜することを公然実施していたことが認められる。そして、それらより平野志介造と平野繁造とが同一人物であり、また、パイプをインジエクシヨンヘツドにより高圧窒素ガスで掃除し、主剤と硬化剤とを混合した二液性のエポキシ樹脂塗科により塗膜することを公然実施していたことはそれぞれ認められるが、塗料が主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹詣塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになつていることが公然実施されていたものとは認められず、このことは証人佐藤久に対する証拠調べによつても変わらない。

一方、本件発明は、前記の構成により明細書に記載されたとおりの優れた効果が得られたものと認める。

したがつて、本件発明が本件出願前に公然実施された発明であるとは認められない。

5  以上のとおりであるから、請求人の提出した証拠及び理由によつては本件特許を無効にすることはできない。

四  審決の取消事由

甲号各証に審決認定の記載事項があることは認めるが、審決の本件発明の要旨の認定、甲第一号証の発明において、塗料が主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹脂は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送り出されるようになつていることが当業者に自明であるものとは認められないとの判断及び平野繁造が主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料を旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようにして塗膜することを公然実施していたものとは認められないとの判断は争う。

審決には、自然法則上の自明の原理を看過して本件発明の要旨の認定を誤り、また、本件出願前の公知あるいは周知の事実を看過して右各判断をし、もつて本件発明が甲第一号証の発明と同一ではなく、公然実施もされていなかつたと誤つて判断して本件特許を無効としなかつた違法と、特許無効理由通知に対する被請求人(被告)の意見書の副本を請求人(原告)に送達せず、原告に反論の機会を与えなかつた手続上の違法があるので、取消しを免れない。

1  無効事由(1)について-取消事由(1)

審決は、甲第一号証には、塗料が主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹脂は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになつていることについては記載されていないと判断している。

しかし、甲第六号証の一ないし一二からすると、審決が認定しているように「水道管の内面塗装にタールエポキシ樹脂塗料を使用すること及びこの塗料が本件出願前の昭和五〇年八月一二日、昭和五〇年六月四日に公知であつた」ことが認められ、とくに同号証の三に「日本水道管協会より水道用タールエポキシ樹脂としてのその塗膜性能、塗装方法について規格化された」こと、甲第六号証の四、五、一一に「タールエポキシ樹脂塗料がA液(主剤)とB液(硬化剤)との二液性であること一が記載されており、また、本件明細書にも「エポキシ樹脂塗料のライニングをする。」(昭和五七年特許出願公告公報(以下「本件公報」という。)二欄二行、三行)と記載されており、本件発明の発明者自身も、水道管などのパイプの内面塗装にエポキシ樹脂塗料を使用することを自認していることが認められることからして、水道管の内面塗装に「主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料」を使用する技術は、甲第一号証の発明の出願前において周知慣用の技術である。

なお、タールエポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂(主剤)とアミン類(硬化剤)の二液性エポキシ樹脂塗料において、エポキシ樹脂の一部をタールで置換した塗料であり、二液性エポキシ樹脂塗料の一種である。また、エポキシ樹脂は高い粘度を有しているものである。

右のとおり、甲第一号証に、水道管の内面塗装を実施する際に塗料として「主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料」を使用することが記載されていないとしても、甲第一号証の発明の出願前において水道管の内面塗装に二液性のエポキシ樹脂塗料を使用することは当業者にとつて周知慣用の技術であるにもかかわらず、審決は、この点を看過して、甲第一号証の発明においては主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料を用いるものではないと誤つて判断したものである。

そして、審決は、本件発明の特許請求の範囲に記載された「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになつていること」を本件発明の必須の構成要件と認定し、この構成要件が甲第一号証の発明に記載されていないと判断したが、この判断は自然法則上の自明の原理を無視したものである。

本件発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面においては、特許請求の範囲の「旋回連動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給して通過させる一に対応する具体的構成は記載されているが、特許請求の範囲の「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出される」ことに対応する具体的構成については、全く記載されていない。

そして、甲第二三号証(森川敬信外二名著「流れ学」朝倉書店一九八一年八月二五日発行)の三四頁、三五頁には、管内に旋回しつつ流出する流体を供給したとき、流体は半径方向に向かう力(遠心力)と管内周面の接線方向で旋回方向に向かう力、そして管の軸線方向へ流出する方向かう力がそれぞれ作用することが自然法則上の自明の原理として記載されている。このような力を有した流体に塗料を乗せたとき、この塗料にも流体が有する右の各力が作用して管内を旋回運動しながら内面に付着して塗装するという作用が生ずることは、右の自然法則上の自明の原理からして、当業者にとつて自明の事項であり、また、その際、エポキシ樹脂塗料がある程度の粘度を有しているので螺旋状に延びることも、当業者にとつて自明の事項である。

以上のことからすると、本件発明の特許請求の範囲に記載された「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出される」という記載は、特許請求の範囲に記載された「旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給して通過させる」構成による自然法則上の自明の原理による作用を単に記載したにすぎず、本件発明の要旨を決定する構成ではない。

仮に、その点が本件発明の要旨書となるとしても、甲第一号証の発明においても、自然法則上の自明の原理として、塗料は、旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるものであり、この点で両発明に違いはない。

因みに、原告は、甲第一号証の発明の明細書について、平成一年審判第五二七三号をもつて、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正審判の請求をし、平成三年三月一四日、甲第一号証の発明の明細書の特許請求の範囲1を「移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の内面を塗装する方法であつて、既設長尺管の内部にガスを供給して既設長尺管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管内の供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することを特徴とする既設長尺管の内面塗装方法。」とする等の訂正審判がされた。

以上のことからすると、本件発明の「旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端供給して通過させる」という構成は、本件出願前に出願された甲第一号証の発明の「管内を旋回しながら進行するガス流に塗料を供給して管内面に吹き付けて塗装する」という構成と実質的に同一であり、もつて、本件発明と甲第一号証の発明とは同一になるにもかかわらす、審決は、これらは同一ではなく、特許法二九条の二の規定に該当しないと判断したもので、誤りである。

2  無効事由(2)について-取消事由(2)

審決は、パイプをインジエクシヨンヘツドにより高圧窒素ガスで掃除し、主剤と硬化剤とからなる二液性のエポキシ樹脂塗料により塗装することを公然実施していたことを認定しながら、塗料が主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになつていることが公然実施されていたとは認められないと判断している。

しかし、右認定は、一部において自己矛盾しているとともに、自然法則上の自明の原理に反するものである。

まず、審決は、主剤と硬化剤とを混合した二液性のエポキシ樹脂塗料により塗膜することを公然実施していたことを認めながら、主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料により塗膜することを公然実施していたことを否定しているが、これは明らかに自己矛盾した認定であり、誤りである。

甲第一九号証の平野繁造の供述書によれば、同人は、パイプをインジエクシヨンヘツドにより高圧窒素ガスで掃除し、主剤と硬化剤とからなる二液性のエポキシ樹脂塗料により塗装する方法を公然実施したこと、その際のインジエクシヨンヘツドは甲第一二号証の図面のものであることを認めている。

この甲第一二号証のインジエクシヨンヘツドは、本件出願前に公開された甲第三号証のものと同一構造であり、渦巻状に旋回するガスにより研磨材をパイプラインの内部に吹き付けて掃除する際に、供給されたガスを邪魔板により螺旋状に旋回させてパイプラインの入口部における掃除作用を改善するものである。

そして、公然実施した方法は、甲第一二号証のインジエクシヨンヘツドを使用したものであり、このインジエクシヨンヘツドにより供給された窒素ガスを旋回運動させ、旋回運動する窒素ガスにより供給されたエポキシ樹脂塗料を旋回運動させてパイプに供給して塗装するものである。この場合、甲第二三号証から明らかなように、パイプの内面塗装をする塗料には旋回運動する窒素ガスにより遠心方向に向かう力、パイプ内周面の接線方向で旋回方向に向かう力及び軸線方向でパイプの終端に向かう力がそれぞれ作用してパイプ内を始端から終端に向かつて旋回状態で送出されることになる。

以上のことから、審決が、本件出願前、主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料を旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出させるという方法により塗膜することを公然実施していたとは認められないと判断したことは、誤りである。

3  取消事由(3)

特許庁は、特許法一五三条に基づく昭和六三年一月二五日付けの特許無効理由通知書を請求人(原告)及び被請求人(被告)に送達し、意見書提出の機会を与えたが、被告が提出した意見書の副本が原告に送達されていない。その意見書が無効理由通知を撤回させるに充分なものであれば、原告にとつても重大な利害があるものである。このような書面であるにもかかわらず、原告に対して意見を述べる機会を全く与えることなく審決をし、また、審決においてもこの点について何らの判断を示していないものであり、審決には重大な手続違背がある。

第三  請求の原因に対する認否及び被告らの主張

一  請求の原因一ないし三は認める。

二  同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

1  取消事由(1)について

甲第一号証の発明は噴霧吹付けによる塗装であるのに対し、本件発明は旋回延伸によるものであり、その技術的内容は異なる。

甲第一号証には、装置的にも、方法的にも、塗料について主剤と硬化剤とを混合する技術的思想は記載されていない。

本件発明は、明細書に記載されているように、主剤と硬化剤は容器40、41に別々に収容され、ミキシングモータ48内で初めて混合される(本件公報三欄一八行ないし三〇行)ものであつて、混合されれば短時間の内に粘度が高くなり硬化するものである。そのため、本件発明における圧縮空気は七kg/cm2(同二欄一五行)となつている。

これに対し、甲第一号証の発明の供給ガスは一kg/cm2(二頁右上欄五行)となつており、使用塗料についても、「塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されているか、他の方法として、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状態で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させる・・・一(二頁左上欄一七行ないし右上欄三行)と、粘度が低く噴霧状で供給し得るような通常の塗料を使用することが明記されている。

このことは、甲第二五号証(甲第一号証の発明の発明者平野繁造の証人調書)の問四三に対する「そこまでは考えていません。圧力のポツトを作り、塗料にある一定の圧力を加えて吹出させます。吹出した具合は、塗料の粘度により霧上(「霧状」の誤り。)または団子になつたり色々あると思いますが、とにかく管内へ塗料が入り、壁画へ付いてくれれば、塗れるのではないかという発想です。」との証書によつても明確に裏付けられる。

以上のように、甲第一号証の発明は、「主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料」の使用を全く予定していないのは勿論、甲第一号証に開示された技術内容によつては、主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗科を使用し、これを旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出することは、装置的にも不可能である。

また、原告は、甲第二三号証を援用して、本件発明の特許請求の範囲に記載された「エポキシ樹脂塗料は旋回運動しながら圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出される」ことは、「旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給させて通過させる」構成による自然法則上の自明の原理であるとして、本件発明と甲第一号証の発明とが実質的に同一である旨主張する。

しかし、甲第二三号証は、旋回しながら管内を移送される流体の現象を取り扱つたものでなく、旋回しながら外周に向かつて流出する流体に関するものであり、本件には関わりのないものである。

そして、本件発明においては、コンプレツサー10による七kg/cm2程度の圧力と案内羽根58とを用いて積極的に圧縮気体の旋回運動を生ぜしめているもので、甲第一号証の発明における「管内を旋回しつつ進行するガス流」とは質的にも方法的にも異なるものである。

甲第一号証の発明における「管内を旋回しつつ進行するガス流」では、粘度の高い混合後のエポキシ樹脂塗料を螺旋状に延びながら旋回して送出させることは不可能である。

なお、甲第一号証の発明の明細書について、原告から訂正審判の請求がされ、当初明細書の記載について原告主張の訂正がされたことは認める。しかし、右訂正は、本件発明を甲第一号証の発明と同一発明と認定したものでなく、また、甲第一号証の発明の当初明細書の記載自体を変更するものでもない。原告が本件発明の特許を無効とする事由の一つである特許法二九条の二の規定は、先後願の規定であり、訂正された事項を先願の当初明細書及び図面の記載に加えて同条の該当性を判断する余地はない。

また、審決が審理判断の対象としたのは甲第一号証の発明の当初明細書であるから、本件訴訟において訂正審判によつて認められた訂正の内容を審理の対象とすることはできない。

2  取消事由(2)について

原告は、審決が、パイプをインジエクシヨンヘツドにより高圧窒素ガスで掃除し、主剤と硬化剤とからなる二液性のエポキシ樹脂塗料により塗装することを公然実施していたことを認定しながら、塗料が主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになつていることが公然実施されていたとは認められないと判断したのは自己矛盾であると主張するか、審決は、前者の事実までは認められるが、後者の事実までは認められないとしているにすぎず、何ら矛盾するものではない。

また、原告が甲第一号証の発明の塗装を実際に施行した工事であると主張する甲第一九号証記載の工事は、乙第三号証、第四号証(これらは、別件審判事件において原告が甲第一九号証の工事の見積書及び工事工程表として提出したものである。)に記載されたデータからして、次のとおり、明らかに噴霧塗装であり、本件発明と同一の塗装方法ではない。

甲第一九号証記載の工事は、直径一〇〇ミリ、全長八五〇メートルの鋳鉄製水道管の内面を塗装したものである。

乙第三号証の見積書に記載された塗料費は、〇・七九kg/m×八五〇mを一式として記載されているが、これをエポキシ混合比重を一・〇五ないし一・一として逆算すると六三九lから六一〇lとなる。ところが直径一〇〇ミリ、全長八五〇メートルの鋳鉄製水道管の内面を塗装するのに必要な塗料は、膜厚を一ミリとしても一〇センチ(内径)×三・一四(円周率)×〇・一(膜厚)×八五〇〇〇(施工長さ)で二六七lである。このことは、必要塗料の二・三倍もの量の塗料を見込んでいるもので、噴霧化した塗料が内壁に吹き付けられて塗膜を形成する分のほか、旋回ガス流に乗つて管中心部をそのまま吹き抜けてしまうロス分を予定していることが明白となる。

更に、乙第四号証の工程表によれば、管内塗装時間は一二時から一三時までの一時間となつており、このような短時間のうちに八五〇メートルもの管全長の内面にわたつて塗料の塗布を行うには、極めて低粘度の塗料を噴霧状で供給し(甲第一九号証の写真4においても、塗料が噴霧状態で噴出されていることが明白である。)、かなり高速のガス流に乗せ、短時間で始端部から終端部に通過させて吹き付ける方法でなければならない。つまり、噴霧塗装によらねば行えないものである。

また、乙第三号証の見積書に記載されたガスの使用量三〇〇〇m3を基にガス流速を算出すると、毎秒一〇〇メートルもの高速となるのであり、低粘度の噴霧状塗料粒子は極めて短時間のうちにガス流に乗つて管終端部に到達し、多量の塗装ロスを出しながら、管内面に吹き付け塗装されるものである。

これに対し、本件発明においては高粘度の塗料を使用してそれが管内を空気流により旋回延伸されるものであるため、管内での塗料の進行速度は、毎分一・五メートルからせいぜい三メートル程度であり(因みに、八五〇メートルの管全長を一時間で塗装するとすれば、その速度は毎分一四メートル強になる。)、一時間という短時間では、八五〇メートルにわたる塗装はなしえない。更に、本件発明では、塗料が空気流により旋回延伸されるものであるため、管終端部に塗料が到達すれば塗装工事は終了するのであり、噴霧塗装のように多量の塗装ロスを生じることはない。

以上のとおり、原告が公然実施されたとする甲第一九号証記載の塗装は、噴霧塗装であり、塗料が旋回する空気の流れにより螺旋状に延びながら旋回して送出される本件発明の方法とは異なるものである。

3  取消事由(3)について

特許法において、同法一五三条の無効理由通知に対する一方の意見書を相手方に送達すべきことは規定されていない。原告は甲第二四号証による無効理由通知書に対し意見書提出の機会が与えられたのであるから、これにより原告の権利は確保されており、審判手続の違法をいう原告の主張は全く理由がない。

第四  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件発明の特許請求の範囲)及び同三(審決の理由の要点)、及び審決の甲号各証の記載事項の認定については当事者間に争いがない。

原告は、審決が本件発明の要旨を特許請求の範囲に基づいて認定した点について、右記載のうち「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出される一点は、「旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端へ供給して通過させ」ることから生ずる自然法則上の自明の原理にすぎないものであり、本件発明の要旨ではない旨主張しているが、その点も本件発明の技術的事項として本件発明の要旨となること後述のとおりである。

第二  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

一  成立に争いのない甲第二二号証の一(本件公報)及び二(同訂正公報)によれば、本件発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果として次のような記載があることを認めることができる。

1  技術的課題(目的)

本件発明は、設置されている老朽化したパイプを取り外すことなくしてそ生するパイプのそ生方法に関するものである(本件公報一欄二七行ないし二九行)。

本件発明は、金属製パイプ内でさびが発生したりあるいは付着物が付着して老朽化した場合、旋回運動しながら送出される砂を含む圧縮気体をパイプの一端に供給してパイプ内を通過させて掃除し、かつ旋回運動しながら送出されるエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給して通過させパイプの内面に塗膜させ、さらにエポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようにしたパイプのそ生方法を提供すること、特にエポキシ樹脂塗料が大きい遠心力により極めて良好にパイプの内面に付着して無駄なくパイプの内面全部に塗膜できるようにしたパイプのそ生方法を提供することを技術的課題(目的)とするものである(訂正公報2項)。

2  構成

本件発明は、前項の技術的課題(目的)を達成するために、特許請求の範囲記載の構成を採用した(同1項)。

3  本件発明は、前項の構成を採用することにより、砂を含む圧縮気体が旋回しながらパイプ内を通過して掃除し、かつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂を含む圧縮気体が旋回しながらパイプ内を通過してパイプ内面に塗膜し、この場合エポキシ樹脂塗料は螺旋状に延びながら旋回して送出させるようになつているから、エポキシ樹脂塗料が大きい遠心力によりきわめて良好にパイプの内面に付着して無駄がなくなると共にパイプがかなり長くても全長にわたつて塗膜でき、パイプのそ生工事を簡単かつ迅速に行うことができるという作用効果を奏するものである(同3項)。

二  一方、成立に争いのない甲第一号証(昭和五四年特許出願公開第一二七九四一号公報)によれば、甲第一号証の公報は、名称を「管の内面塗装方法」(公報一頁左下欄二行)とする発明に係るものであるが、特許請求の範囲には、「(1)管の内面を塗装する方法であつて、管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生じせしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する管の内面塗装方法」(同四行たいし八行)と、発明の詳細な説明には、「本発明は管の内面塗装、とくに水道管、各種パイプラインのように埋設あるいは固定された管の内面塗装に関するものである。管の内面塗装には静電塗装等の方法が用いられるが、長尺管、固定管あるいは曲管部の内面に塗装することは非常に困難か、不可能であつた。本発明の方法は、このような従来技術では困難または不可能とされていた管の内面塗装、とくに水道管や各種パイプラインのように固定された管の内面塗装を可能とするものであつて、管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成することを特徴とするものである。」(同欄下から三行ないし右下欄一一行)、「第1図(別紙図面二参照)においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されているが、他の方法として、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させることもできる。供給ガスはそれほど高圧である必要はなく、たとえば一kg/cm2程度の圧力であつても、きわめて短時間で長尺管の他端まで塗料を搬送して、管の全内面に塗装することができる。」(二頁左上欄下から四行ないし右上欄七行)、「近時、水道管、パイプライン等の内都を研掃するのに、窒素ガスで付勢された研磨剤によつて管内を研掃する工法が開発されたが、この工法で内部を研掃された管の内面に塗装を施すのであれば窒素ガス源(液体窒素)がすでに用意されているので、本発明の方法をきわめて容易に、しかも好結果の得られる状態で実施できる。」(同頁右上欄一五行ないし左下欄一行)、「管1内には旋回ガス流が生じ供給管7内を流下する塗料はその先端部でガス流に乗つて管1の内面に万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する。」(同頁右下欄四行ないし七行)と記載されていることを認めることができる。

三  そこで、本件発明と甲第一号証の発明との同一性の有無について判断する。

甲第一号証には、その発明に用いる塗料の種類については何ら記載されていない。

しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めることができる甲第六号証の一一(日本塗料検査協会東支部検査所作成の昭和五〇年八月一二日付け東京都水道局宛の試験結果報告書)には、大日本塗料株式会社作成のSDCコート#402TF JWWA K 115の主剤と硬化剤の混合比を八五対一五にしたものについて、容器の中での状態、付着性等の項目につき試験をし、試験結果が合格である旨が記載されていることを認めることができる。

また弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めることができる甲第六号証の一二(社団法人東京都食品衛生協会東京食品技術研究所長作成の大日本塗料株式会社宛昭和五〇年六月四日付け試験検査成績書)には、SDCコート#402TF JWWA K 115の水道用タールエポキシ樹脂塗料の溶解試験をし、規定に適合する旨が記載されていることが認められる。

そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めることができる甲第六号証の三(大日本塗料株式会社技術第一部作成のSDCコート#402TF JWWA K 115説明書の「§1緒言」の部分)によれば、前掲甲第六号証の一一及び一二に記載された各試験は、日本水道鋼管協会が水道用タールエポキシ樹脂塗料の塗膜性能、塗装方法について規格化したことを受けてされたものであることからすると、水道管の内面塗装に主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を使用することは、甲第一号証の発明の出願当時既に周知のことであつたと認めることができる(これに沿う審決の認定について当事者も争つていたい。)。

そして、前認定のとおり、甲第一号証の発明は水道管等の内面塗装に関するものであるから、当業者は、甲第一号証の発明に用いる塗料に、その出願当時周知の主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料が含まれることを容易に理解することができるものである。

これに対し、被告らは、甲第一号証に供給ガスが一kg/cm2と記載されている等のことからして、甲第一号証の発明で使用される塗料は、粘度が低く噴霧状で供給し得るような通常の塗料であり、本件発明で使用される圧縮空気を七kg/cm2と高くし、混合して短時間の内に粘度が高くなり硬化する塗料とは異なる旨主張する。

しかし、前認定のとおり、甲第一号証には、「第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されているが、他の方法として、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させることもできる。供給ガスはそれほど高圧である必要はなく、たとえば一kg/cm2程度の圧力であつても、きわめて短時間で長尺管の他端まで塗料を搬送して、管の全内面に塗装することができる。一(二頁左上欄下から四行ないし右上欄七行)と記載されているのであつて、「一kg/cm2程度の圧力」というのは、甲第一号証の発明において塗料を噴霧状で供給するという方法をとる場合に用いられる供給ガスの最低の圧力を示したにすぎないものであつて、甲第一号証の発明は、他に、粘度が高い塗料を用いることが可能な、塗料を「たれ流しの状態」で供給する方法を含んでいるのであり、その場合においては一kg/cm2を超える圧力、例えば本件発明と同じ七kg/cm2という圧力の供給ガスを用いることを何ら排除しているものでないことは明らかである。

また、被告らは、本件発明は、主剤と硬化剤は容器40、41に別々に収容され、ミキシングモータ48内で混合するように主剤と硬化剤とを混合した塗料を使用する装置が明らかにされているのに対し、甲第一号証には、そのような装置、方法が記載されていないと主張する。

しかし、甲第一号証の発明においては塗料の種類を限定していないため、本件発明のように主剤と硬化剤とを混合する装置、方法を記載してはいないが、甲第一号証の発明において、水道管の内面塗装をするため周知の主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を使用する場合、その混合のための装置を備えることは当然であり、甲第一号証の発明がそれを排除しているものでないことは明らかである。

以上のことからすると、甲第一号証の発明は、塗料として主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を用いることを排除するものではなく、その点で本件発明と同一であるというべきである。

次に、本件発明と甲第一号証の発明の塗料の送出態様について検討する。

この点に関し、原告は、本件発明の特許請求の範囲に記載された「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出される」という記載は、特許請求の範囲に記載された「旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給して通過させる一構成による自然法則上の自明の原理による作用を単に記載したにすぎず、本件発明の要旨を決定する構成ではない旨主張する。

しかし、旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給して通過させた場合にエポキシ樹脂塗料が呈する状態は、塗料の粘度や圧縮気体から受ける力によつて変化するものであり、旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給して通過させれば、塗料の粘度や圧縮気体の圧力に関係なく、それにより当然にエポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されることになるとは考えられない。したがつて、本件発明において、「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出される」ことは、「旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端に供給して通過させる」場合に塗料の呈する状態を限定したものであると認めることができ、その点は本件発明の技術的事項であり、本件発明の要旨になるというべきである。

そして、前掲甲第二二号証の一によれば、本件明細書には、「砂加圧送出機26を用いてクリーニングの終わつたパイプ80を塗料加圧送出機51の送出口60に連結して塗斜を含む圧縮空気を送出すると塗料は粘性の大きい液状のものであるため旋回する空気流により螺旋状に延びながら旋回して送出され大きい遠心力によりパイプ80の内面にきわめて良好に付着して塗膜を形成することになる。」(本件公報三欄四二行ないし四欄五行)と記載されていることが認められる。この記載からすると、本件発明において、塗料が螺旋状に延びながら旋回して送出されるという現象を呈するのは、塗料が粘度の大きい液状のものであり、これを旋回する空気流により送出することによるものであると認めることができる。

一方、前認定のとおり、甲第一号証の発明には塗料を噴霧状にして送出するものだけではなく、粘度の高い塗料をタレ流しにして、旋回ガス流により送出する方法を含むものである。

そうであれば、甲第一号証の発明において、粘度の高い塗料をタレ流しにして管内を旋回しつつ進行する本件発明の圧縮空気と同程度の圧力のガス流(甲第一号証の発明のガスの圧力は本件発明の圧縮空気の圧力と同程度のものを排除するものではないこと前述のとおりである。)により送出させれば、本件発明と同様、その塗料は、螺旋状に延びながら旋回して送出されることが明らかである。

前認定のとおり、甲第一号証には、「管1内には旋回ガス流が生じ供給管7内を流下する塗料はその先端部でガス流に乗つて管1の内面に万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する。」と記載されているが、これはそのような現象をも含めて表しているものということができる。

したがつて、甲第一号証の発明は、主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料を、旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出させる方法を排除するものではない。

四  以上の認定事実によれば、甲第一号証には、本件発明と実質的に同一のパイプのそ生方法が記載されている、というべきである。

しかるに、審決は、甲第一号証には、塗料が主剤と硬化剤とを混合したエポキシ樹脂塗料であり、そのエポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送り出されるようになつていることが記載されてなく、そのことが当業者に自明であるものとは認めることができないとして、本件発明は甲第一号証の発明と同一ではないと判断したものであり、誤りである。

したがつて、その余の点について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

第三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める本訴請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面一

〈省略〉

別紙図面二

〈省略〉

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